「塗綾桧笠」保存修理について  飯野八幡宮所蔵

これは17世紀中ごろに作られた流鏑馬神事の際に被る笠です。

一般的には木の皮を編んで作る質素な笠なのですが、これは豪華な蒔絵や飾り金具を施した稀な作例で、しかも今なお毎年行われる流鏑馬神事で実際に使用され続けています。 その為、大変痛んだ状態で持ち込まれました。

この笠は「一閑張り」という和紙を張り重ねる技法で制作されており、破損箇所からその和紙が露出している状況が見えます。

 

 

 

このような大きな破損箇所には芯として木の薄板などを補強材として仕込み、漆で表面を繕ってゆきます。

文化財の修理では、オリジナルの部分は徹底して尊重し、一切損なわないのが鉄則です。 また、後世誤った修理が施されている場合は、原則として記録を取った後、取り除くのが一般的です。

修理箇所の周りを痛めぬ様に作業するのは、大変神経をすり減らします。

金銅製の覆輪も随所で大変傷んでいました。 針金で痛々しく括り付けられているのもわかります。

 

 

 

金銅製の覆輪も随所で大変傷んでいました。 針金で痛々しく括り付けられているのもわかります。

 

 

金具類は、いったん全て取り外し、成形したのち取り付けます。

また、欠失している部品や釘は、オリジナルと同材の復元品を制作して取り付けます

 

 

笠の制作当初から付随していたと思われる紐は傷みが激しく、今後の使用に耐えられないものと判断し、別途保存して復元品を制作しました。

 

 

 

緑青によって大きく美観を損ねているので、除去した後、金色を復元しました。

 

 

 

 

薬品によって科学的に除去した後、いったん全面に金箔を漆で貼り付けます。

しかしそのままでは鮮やかすぎ、時代の雰囲気を損ねるので漆を使って程よく古色を施します。

このように伝統的な素材を使った修理は熟練を求められ、また費用もかかりますが、素材同士の整合性や信頼性については議論の余地がありません。

文化財の活用に関しても、正しい修理は物そのものの価値を高め後世に伝えるのみならず、技術の学習、伝承まで含んだ総合的な行為であると考えています。